2019年11月4日月曜日

銀河ヒッチハイク・ガイド(The Hitchhiker's Guide to the Galaxy)2訳を読んで。

銀河ヒッチハイク・ガイド(The Hitchhiker's Guide to the Galaxy)
略称はH2G2。イギリスの脚本家ダグラス・アダムスが書いたスラップスティックSFシリーズ。
(Wikipediaより)
何年前かに東京国際ブックフェアでこの本を購入し、一読するまでもなくアイロニーたっぷりのイギリス風ユーモア溢れる文章と、そんな筆致で展開されるめちゃくちゃなストーリーにぞっこん惚れてドハマリし、これをSFと呼ぶべきかどうかも自信がなくなった挙げ句、このシリーズは私が死んだらお経よりも読んでほしい本になりました。シリーズ6作(And Another Thing...)含めて通して5回くらい読んでいますし1~3に至っては10回以上読んでいます。『バカSFの歴史に燦然と光り輝く超弩級の大傑作』(大森望)の評に間違いはありません。

映画化と時を同じくして出版された河出文庫の安原和見訳で十分満足していたのに、何で今さら新潮社の風見潤訳の銀河~を買ったかと言うと、夏だからということで再読していたジョン・ヴァーリィ「Press Enter」の氏の訳が、別の文庫にあった中原尚哉訳よりも断然良かったからなんですよね。
いやほんと、もう断然良かった。原文に当たれないので正確かどうかは判断できないのが苦しいところですが、恐怖を煽る日本語の使い方が圧倒的に素晴らしかった。
そんなわけで、銀河~の安原訳に批判的な意見をAmazonレビューで見ていたこともあり、安原和見訳でも十分面白いが、もしかしたら風見潤訳はもっと良いのかもしれない。ただでさえ面白いのにこれ以上どうなっちゃうの、と意を決してAmazonをポチったのでした。昭和57年発行なので当然新潮社では廃刊のため古書です。

届いてから期待で胸がはち切れそうでしたが、最後まで読んでみて、結局の所・・・まあ訳者にも向き不向きってあるよね・・・という結論に至りました。

風見訳は当時の日本語で正確だったのかもしれないけど、安原訳を先に読むとちょっと物足りない。というか全然物足りない。
安原訳は、なんとかして銀河~の原文のユニークさを日本語に置き換えようと尽力してるのがわかります。このバカバカしさを、このド皮肉めいたユーモアをなんとか日本語で伝えようとしていて、しかもそれは相当成功していると思います。

どちらが優れている、とかをこれまた原文にあたれない(あたれたとしても英語力が皆無)な私は言えたものではありませんが、日本語として優れているかどうかくらいはわかります。
会話のテンポ感、言い回しの面白おかしさ、生き生きとした世界の描写、どれをとっても安原訳のがウワテです。
結局の所翻訳は、どんなに原書に忠実だろうと、日本語で読者に読ませることが出来なかったら意味がないのですね。

数え上げるときりがないのですがとりあえず目についたものを。

(例の酒)
安)汎銀河ガラガラドッカン
風)汎銀河ウガイ薬バクダン

(ブルドーザーの前に横たわるのを交代してふたりが酒屋に行くときの会話)
安)ともかく、僕は信用できると思うね。少なくとも地球がなくなるまでは
風)ぼくは地球がなくなるときまで彼を信用するね

(Don't Panic)
安)パニクるな
風)あわてるな

(黄金の心号に拾われてここはサウスエンドなんじゃないかと言っているくだり)
安)「じつはぼくもだ。ということは僕らはふたりとも頭がおかしいんだな」「発狂するにはぴったりの日だもんな」
風)「それゆえ、ふたりは狂っているに違いない」「狂うにはいい日だよ」

「それゆえ」ってそれ会話としてどうなん?

(ビル内で取り残されたマーヴィンが、どんな武器を持っているのかと尋ねる敵ロボットに向かって)
安)「あててごらんなさい」
風)「思考です」

思考って!ここでその答えだと、そのあとのマーヴィンとロボットの押し問答の下りがめちゃくちゃおかしくなる!

(マグラシアでのスラーティバートファーストとアーサーとの会話)
安)「ぼくとぼくの生き方はぜんぜん反りがあってないような気がする」
風)「ぼくのライフスタイルはどうにもこうにもひどいもんだな」

いや、この時点では、アーサーは自分のぼろぼろの服とかを確かに見下ろしてうんざりした上で言ってるけど、その前にスラーティが「自分の生き方」の話してるんですよ。それに対してアーサーが「いい生き方ですね」って返しているわけですよ。安原訳も風見訳も。
そして色々あって"ねずみ"に会ってから、スラーティが去り際にアーサーに

安)「自分の生き方と仲直りできるとよいな」
風)「ライフスタイルがよくなればいいね」

って声をかける場面。そこでライフスタイルって!
そこはやっぱり「生き方」じゃないか?

まあ数を上げていくときりがないのですが。
全般的にだいぶ不自然というかですね・・・古めかしいのかな・・・?
Amazonで安原訳をケナしている人はあまり日本語が得意でないか、そもそもこの本が嫌いなんじゃないかとさえ思う。
文章の面白さも安原訳の方が圧倒的。
今更新潮社の方を買う人がいるとは思いませんが(特に3巻は中古で目が飛び出るくらいの値段がする)河出文庫版をおすすめします。

ってこんなこと書いて怒られませんように。
不愉快な思いをされた方がいらっしゃいましたらあらかじめお詫び申し上げます。

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